180センチのすらりとした長身は舞台映えがする。劇団四季、音楽座を経ているだけあって、今までに培ってきたミュージカルに対するセンスは確かなものを持っている。それに加えて、くっきりした顔立ちが魅力でもあるのだろう。
「AKURO一悪路−」。TSミュージカルファンデーションのオリジナル・ミュージカルで演じた謎の若者・アテルイ。西暦700年代の東北での蝦夷と大和の民族間の戦いと人としての誇りを謳い上げた芝居の中で、主人公に重要なサジェッションを与えるのが彼の役だった。
アテルイは、不明な事柄も多いが、実在の人物とされている。その辺りに劇作家がイマジネーションを刺激されるのだろうが、その謎めいた雰囲気がよく出ていた。彼が舞台に登場した瞬間、舞台の空気が一変する。クールな空気が漂うのだ。虚無感にも似たような冷徹な眼差しが印象的だった。
吉野圭吾は視線で芝居をする。「目干両」という言葉が芝居の世界にあるが、目で物を言う役者なのだ。目は口ほどにものを言うばかりではなく、口以上のことを表現する。目に漂う色気や殺意、哀しみといった感情が、彼のアテルイにはよく似合っていた。特にこの舞台では、行き場のない哀しみをたたえた目が、非常に魅力的だった。
唄が巧みなのは当然のことだ。伸びやかな楽曲もしっとりした唄もよく似合う。スケールの大きな芝居も緻密な芝居もできるのが、彼の魅力だろう。
彼のミュージカルを中心とした幅広い活動で目立つのは、作品に恵まれていることだ。「ダンス・オブ・ヴァンパイア」などの大仕掛けなものばかりではなく、「暗い日曜日」や「パウロ」などで主役を演じ、積み重ねてきた蓄積がある。ミュージカル全盛の今、これからの演劇シーンで彼が果たす役割はどんどん大きくなるだろう。それが楽しみだ。
大塚薬報 2007/No.622
中村義裕
イケメン5人衆
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