無責任男の活力

gomasuri

 駐車場で、男が車をバックさせていると、植木等さん演じる主人公がやってきて「オーライ、オーライ」。親切に誘導を始める。真に受けた男が言われるままバックさせると、後ろの車にどすん。男が「この野郎」と窓から顔を出した時には、主人公は一目散に逃げている。

 一世を風靡(ふうび)した映画、無責任シリーズの一場面だ。「スーダラ節」という人を食ったような歌といい、それまでの大衆芸能にはなかったギャグとキャラクターで、笑いの新時代を告げるかのようだった。

 その植木さんが亡くなった。植木さんを国民的人気者に押し上げた「スーダラ節」は1961年。翌年から無責任シリーズが始まっている。「高度経済成長下の管理社会での下級サラリーマンの悲哀を自嘲(じちょう)的、爆発的に歌と体で表現した」(キネマ旬報・日本映画俳優全集)。

 とはいいながら、そんな無責任男が会社の危機を救ったりして思わぬ出世をしていくのだから、そこには夢もあった。多くのサラリーマンがこれらの映画に憂さを晴らし、あすへの活力としていったことだろう。

 失われた10年を経て低成長時代へ。その間、サラリーマンたちは猛烈社員、ダメ社員、企業戦士、窓際族―。毀誉褒貶(きよほうへん)、さまざまに呼ばれながら、厳しい企業社会を生き抜き、今、大量退職時代を迎えている。

 青少年期から植木さんの映画や歌に親しんできた団塊世代が退職を始める時に、サラリーマン生活を見届けるように生涯を閉じた。無責任どころか、責任を全うした人生だった


ssmile

scrazy









2007年3月29日
高知新聞 朝刊
小社会

― posted by 大岩稔幸 at 08:01 pm

この記事に対するコメントは締め切られています

<< 2007.3 >>
SMTWTFS
    123
45678910
1112131415 1617
18 19 2021 222324
25 26 2728 29 30 31
 

T: Y: ALL: Online:
ThemeSwitch
Created in 0.0215 sec.