謹賀新年

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 高村光太郎に「牛はのろのろと歩く」と始まる詩がある。題はずばり「牛」。新しい年の?干支(えと)にちなんで読み返してみた。

 牛歩は歩みがのろいことの例えだが、詩人によればただの「のろさ」ではない。「がちり、がちりと/牛は砂を掘り土を掘り石をはねとばして歩く。〈がちり、がちりと自然につつ込み喰(く)ひ込んで自分の道を自分で行く。」

 力強くて着実な歩みだ。しかし詩人は、牛の本質をそれだけとは見ない。利口でやさしい眼(め)〉を持ち、厳粛な二本の角、正直な涎(よだれ)〉も持っていると書く。優しさや正直さは、万事がスピード優先の現代社会で、軽んじられてきたものではなかったか。

 若者に「牛になりなさい」と勧めたのは夏目漱石。晩年、芥川龍之介と久米正雄への有名な手紙にある。人は「とかく馬になりたがるが、牛にはなかなかなり切れない」「牛は超然として押して行くのです」と。光太郎の牛とイメージが重なる。

 金融、雇用、医療…さまざまな「危機」が越年した。まだ濃い霧が立ちこめている。迷える牛たちは、どこを目指せばいいのか。漱石は牛が何を押すのかについて「人間を押すのです。文士を押すのではありません」と説いている。

 目先の利益だけを追い求める米国流のやり方は、破綻した。これからは雇用や環境問題など「人間」を中心に据えた仕組みづくりだ。その道を「がちり、がちり」と前へ押したい。



小社会
2009年01月01日10時09分

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― posted by 大岩稔幸 at 07:00 pm

2008年回顧

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 格差の広がりを背景に、境遇に強い不満を抱く若者らによる無差別殺人が続発した。
 茨城県土浦市と岡山市は駅が、東京・秋葉原は日曜の歩行者天国が凶行の場に一変した。秋葉原の事件は派遣社員の二十代の男に十七人が次々とダガーナイフなどで襲われるという最悪のケースとなった。
 犯行の残忍さとともに、世間を震撼(しんかん)させたのが、「誰でもよかった」といった動機の理不尽さだ。
 身勝手な暴走は若者だけにとどまらない。大阪では四十代の無職男が個室ビデオ店に放火し、十五人が犠牲に。さいたま市と東京で元厚生次官らが連続で殺傷された事件では四十代の無職男が「保健所に飼い犬を殺された仕返し」と供述し、心の闇をのぞかせた。
 いずれの犯人にも共通するのが、不安定な境遇と社会から孤立していることだ。ネット上では冗舌に自己表現できても、生身のコミュニケーションが不得手で、他者への共感能力が欠落している。
 非正規雇用など不安定就労の広がりは、職場の人間関係を分断し、疎外感を深める人も潜在的に増えている。
 人間関係の希薄化が進む風潮は、自殺者の増加と無関係ではない。硫化水素自殺はことし一千人を超えた。発生方法がインターネットで多数紹介されたことの影響が指摘されている。
 救助に入った家族や救急隊員が巻き添えで死傷する被害も多発し、ネットの功罪の「罪」が厳しく問われた。
 高齢者を狙った振り込め詐欺の被害もことしに入って急増した。手口は次々と変わる上に巧妙化している。犯罪に遭わないための情報を、確実に高齢者に届けることが大事だ。
 若者にとって、大麻が身近な存在になっていることも世間にショックを与えた。薬物に対する抵抗感が薄らいでいることの警告だ。より早い段階から予防教育を講じる必要がある。

食の不信さらに

 産地偽装など、食への不信を高めるような事件はことしも絶えなかった。
 年明け早々、中国製冷凍ギョーザを食べた十人の中毒症状が発覚。捜査が進展しないまま、中国製冷凍インゲンや菓子類でも有害物質による汚染が広がった。
 中国産の売り上げ不振から、中国産ウナギを国内産と偽って大量に流通させる大掛かりな偽装が明るみになった。産地証明書までが偽装され、消費者の表示への不信を増幅させた。
 「事故米」を食用に転売する不正も発覚、消費者の食に対する不安が一段と強まった。健康に直結する食品を扱う業者のモラルがあらためて問われている。
 将来への展望を描きにくい時代に、希望や自信をもたらしてくれたのがノーベル賞での日本人の活躍である。
 物理学賞に南部陽一郎、小林誠、益川敏英の三氏が、化学賞は下村脩氏が選ばれた。日本人四人の同時受賞という快挙は、世界に日本の科学力の高さを大いに示した。
 ことしはオリンピックイヤーでもあった。北京五輪の競泳男子平泳ぎでは、北島康介選手が連覇を達成。女子ソフトでは悲願の金メダルを獲得した。上野由岐子投手の力投に多くの国民が胸を熱くした。
 閉塞(へいそく)した社会の風向きを変えるのは、一人一人の心の持ち方だ。どんな状況下でもベストを尽くすことで道は開ける。そう信じたい。






2008年12月29日
高知新聞朝刊 社説

― posted by 大岩稔幸 at 09:42 am

健康情報の過多

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 今日、私たちが情報を得る一般的な手段といえば、ほとんどが紙媒体、電波媒体、インターネットであろう。そして、そういうものから情報を入手した人たちによるクチコミである。近年、この情報量がインターネットを中心にして格段に拡大したために、世の中は「情報社会」と呼ばれるようになった。

 しかし、その情報量たるや膨大なものであり、もはや、出所、内容、正否など玉石混淆、入り乱れて「氾濫」の域にあるといってよい。

 こうなると、事と次第によっては情報の真偽を判断するために、そのまた周辺の情報を得る必要に迫られることになって、さらにその量は膨らむことになる。

 その結果、私たちは得体の知れぬ情報に支配されるというような、つまりは、しっかりと自分の中で咀嚼、整理されずして筋道がつかめないままに行動させられてしまうことになる場合がある。いろいろな局面で思い当たる節がある人は多いだろ、

 とりわけ、社会的背景や医療を取り巻く問題が山積している今日、人びとの「健康」 に対する意識の高まりは並々ならぬものがあって、それに比例して、いわゆる「健康情報」 の量の多さは群を抜いて多い気がする。

 しかし、ほとんどの人が健康で長生きしたいという普遍的テーマを持って生きている以上、発信される情報も飛び交う情報も多くなるのは当たり前のことではある。新聞、雑誌、テレビ、インターネットなどなど、いまや「健康情報」は花盛りである。

 そしてこの 「健康情報」はこれらを見聞きした人から人へ、組み合わさったり欠落したりしながら伝言ゲームさながらに伝播していく。おまけにそのスピードと変化が激しく、一体何が正しくて何が間違っているのかもじっくり
検証している間もない。

 それにもかかわらず、そこから得た「耳学問」を手がかりに健康食品、サプリメント、「☆$@健康法」、代替医療、健康器具などなど……、健康にいいとなれば人びとは手当たり次第に飛びついてみることをするから、いまや「耳学健康評論家」とでも呼べる人たちに支えられた「健康産業」は急成長を遂げている。

 たとえば、健康食品市場規模は健康志向食品と機能性志向食品を合わせると1兆8700億円(富士経済調べ)を超え、2兆円に迫ろうかという勢いである。

 商品の入手経路はドラッグストア、スーパー、ホームセンター、通信販売、訪問販売、インターネットなどさまざまである。なかにはこれらにおさまらない業種やアングラな方法で売られることもある。これを下支えしているのが過多ともいえる「健康情報」なのである。その情報によれば、人間の健康に関してはすべてバラ色に見えてくる。

 だが、それによって決して普遍化の道をたどらないような「自己流健康法」が生み出されていることも確かだ。悪くなければ目くじらを立てることでもなかろうが、それによって肝心な治療を遅らせたり、正しい健康への道を誤ったりするようなことにでもなったら問題だ。実際にそういうことがないわけではない。これこそまさに、

 『健康の深追いをして不健康』

 食器棚などにいろいろな高額の健康食品、サプリメントの入ったきれいな瓶や箱が並んでいるが、ほとんどが食べ残し、飲み残しの消費期限切れだったりするようだ。それに物置か寝室の隅にビニールシートをかぶった健康器具の類もある。たいていは本人も含めて家族の健康を心配して購入したものだ。ときどき何の前触れもなく消えていることもある。

 そしてこれらが夫婦喧嘩の原因になることも少なからずということで、どうも健康の深追いは家庭内の健康にもよろしくないことがあるようで……。








大塚薬報 2008年3月号 No.633

― posted by 大岩稔幸 at 08:53 pm

世間胸算用

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 井原西鶴の傑作「世間胸算用」。副題に「大晦日(おおつごもり)は一日千金」とあるように、一年の総決算日である大みそかに時を定めて悲喜こもごもの町人の姿を描き出す。

 その一つ「銀一匁の講中」は金持ちの商人仲間の資金貸し付けをめぐる話。ある商人について情報を交換し、あの経済状態は見せかけだから、まず少しだけ金を貸して問題がなければ増やしていくべきだ、となる。既に大金を貸していた商人は驚き、仲間の知恵を借り大みそか前に回収に成功するが…。

 ビッグスリー(自動車大手三社)の救済をめぐり、すったもんだが続く米国。巨額の支援要請に政府と議会民主党が当座の資金を手当てしようとしたが、共和党は「ノー」。ブッシュ政権の次の手も功を奏するかどうか。それぞれの胸算用が続きそうだ。

 海の向こうだけではない。主要産業が減産に踏み切り、中小企業も資金繰りの悪化など窮地に追い込まれつつある。とりわけ厳しいのは雇用調整という名の切り捨てに遭った非正規の従業員。職を失っただけでなく、住むところを追われた人も少なくない。

 麻生政権が新たに打ち出した景気対策は「生活防衛」が看板。減税を中心に内容は盛りだくさんだが、助けを必要とする人たちが政治のぬくもりを感じることのできるような中身だろうか。

 西鶴が「銭金なくては越されざる冬と春との峠」と表現した大みそかまで、残すところ半月余り。

― posted by 大岩稔幸 at 10:58 pm

朝バナナダイエット

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 この秋、バナナが全国の店頭から消えた。スーパーの果物コーナーでは、開店と同時に買い占める客が殺到、昼前には売り切れる店が相次いだ。騒ぎは1カ月で収束したが、納豆やココア、寒天などに減量効果があるとして品薄になったのもつい最近のこと。「日本人は、ダイエットに固執して食べ物をえり好みする傾向が強い」と専門家は言う。これからも身近な食品が突然、食卓から消えないとも限らない。騒動の背景を追った。

 まず、今回のバナナ騒ぎを振り返ってみよう。

 ブームの下地はインターネットにあった。国内最大級のソーシャルネットワーキングサービス「mixi(ミクシィ)」に、朝食を水とバナナだけにする朝バナナダイエットを語り合うコミュニティが登場したのは、06年7月のことだ。その後、この方法でのダイエット本が出版されたことから、ミクシィでの参加者も増加。派生したコミュニティは今でも2万5000人が登録しており、朝バナナの実践と、ダイエットの進行を報告し合っている。朝バナナの関連本4冊は11月上旬までに計90万部を売り上げるベストセラーにもなっている。

 そして、9月、テレビが店頭からバナナが消えるほどのブームに押し上げた。

 日本テレビの人気情報番組で6-8月に3回、取り上げられたのを機に、ネット外でも認知度がアップ。9月中旬には、TBS系情報番組でタレントの体験談として「約1カ月半の朝バナナダイエットで7キロの減量に成功した」と紹介された。スーパーに客が殺到、1、2日でたちまちバナナ不足になった。

 バナナ輸入量で国内首位のドール(東京都千代田区)は、テレビで朝バナナダイエットが紹介された6月以降、ブームを予想して、輸入量を前年比約3割増やして対応した。バナナなど農産物は年間生産量が限られているため、日本の輸入量を増やすために、アジア各国から少しずつ融通してもらう必要があったという。それでも9月の放送直後から10月中旬にかけては、各小売店で売り切れが続出、市場価格も押し上げた。

 バナナがいつも通りに買えるようになったのは10月下旬。ブームは収束したが、値段は一部で高止まりしたままだ。名古屋市消費流通課によると、同市中央卸売市場における11月下旬のバナナ1キロ当たりの卸売価格は、昨年同期より35円高い174円。9月のテレビ放送後に一時は200円近くにまで急上昇した。平年なら120-130円台に値が落ちる夏場も、今年はブームのハシリで150円台後半-160円台を推移した。

 日本では毎年、ダイエット食品ブームが起きていると言っても過言ではない。その歴史は30年以上前にさかのぼる。

 古くは、1975年前後に流行した紅茶キノコがある。旧ソ連の家庭で伝統的に飲まれていた飲料だったが、簡単に台所で栽培できることから大ブレーク。効能として▽血庄が下がった▽胃腸が丈夫になった▽肝機能が元に戻った▽自然にやせた--などがあるともてはやされたが、医学的には根拠がないとされた。

 フィリピンのトロピカルフルーツだった「ナタデココ」がダイエット食品としてもてはやされたのは93年。翌94年には岐阜県を震源とする「野菜スープ健康法」がブレークした。

 一方、バナナダイエットは85年にもブームになっており、今年で2回目。同様にココア(96年、07年)も2回のブームがあった。また、インターネットでは過去に流行した▽粉ミルク(84年)▽ゆで卵(88年)▽黒酢(00年)などが依然としてダイエット食品として紹介されており、テレビ番組などをきっかけにブームが再燃する可能性がある。

 ブームによって消費者が一斉に特定食品を買い集める構造を識者はどう見るか。

 ◆過剰な食料供給

 群馬大の高橋久仁子教授(栄養学)は「特に最近のブームは、過剰な食料供給と健康志向を背景に、消費者がテレビの情報に飛びついている」と見る。

 07年に流行した納豆ダイエットでは、メタボリック症候群への関心が高まったことで、中年男性までもがスーパーに走った。

 情報番組でバナナを3回も取り上げた日本テレビ総合広報部は毎日新聞の取材に書面で「健康情報については、視聴者の関心も高く、健康維持と予防を目的として、テーマを選び制作しています。今回の『バナナダイエット』に関しても、その観点から選んだテーマ」などと回答した。

 ◆自信のなさ?

 また、高橋教授は「欧米では総合的に体にいい健康食品がブームになるのに対し、日本ではダイエット一辺倒なブームが発生しやすい」と特殊性を指摘する。日本人は欧米人ほど肥満は少ないことは、統計的に裏付けられている。世界保健機構の05年の統計では、日本で肥満とされるBMIが25以上の女性の割合がアメリカ(72・6%)やイギリス(61・9%)では6割を超えているのに比べ、日本(18・1%)は極端に少ない。それでも、ダイエットに対し、特に女性が強いこだわりをみせているのだ。

 宮城大の樋口貞三教授(食品産業政策)は、「美の追究というより、日本女性の自信のなさがブームにつながっているのではないか」と感じている。

 ◆都合よく解釈

 キャベツダイエットを提唱したことがある吉田俊秀・京都市立病院糖尿病代謝内科部長は「情報が独り歩きして、キャベツだけ食べればやせる、と誤解されるのは迷惑」と言う。吉田部長が提唱した正しいキャベツダイエットは、食前にキャベツを6分の1玉食べることで胃に満腹感を与え、全体の食事量を減らす。キャベツに飽きたらキュウリやトマトを加える。要は繊維質でビタミンCが体によく満腹感も得られるものをとり、食べ過ぎを防ぐ手法で、そもそもは肥満の人のために考えられた。

 吉田部長は「ダイエットの方法は、太った原因や、減らす必要がある体重によっても違い、百人百様だ。特定の食品を食べ続けるだけで、やせるはずがない」と話す。

 大事なのは「正しい生活と、バランスの取れた食事や適度な運動」と吉田部長は強調する。取材を通じて実感したのは、こんな当たり前のことこそ、健康的なダイエットにつながるということだ。

 バナナと日本人

 日本に紹介されたのは16世紀、ポルトガルの宣教師が織田信長に献上したのが最初と言われる。1903年には台湾から正式に輸入が始まった。「風邪を引いた時だけ食べられる」と言われる高級滋養食品だったが、1963年に輸入が自由化され、エクアドル産やフィリピン産の流入が急増。総務省の家計調査では、04年に1世帯当たりの果物の年間購入数量が初めてミカンを抜いて1位になった。今では「日本人が一番口にする果物」になっている。

……………………………………………………………………………

 ◇ダイエット効果がある として流行した主な食品
   (年代はブームのピーク時)

1975年 紅茶キノコ
  85年 バナナ
  88年 ゆで卵
  92年 リンゴ
  99年 唐辛子
  00年 キノコ、おから、黒酢
  02年 低インシュリン食品、ビール酵母
  03年 アミノ酸
  04年 にがり
  05年 寒天
  06年 キャベツ、杜仲茶
  07年 納豆、ココア
  08年 朝バナナ

 (このほかにも、03年以降、コンニャク、豆腐、豆乳、バナナ酢などがはやった)

― posted by 大岩稔幸 at 10:30 pm

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