1.新婚インポテンス
緊張がもたらす勃起不全が遷延したもの、あるいは、固着したもので、その代表的なものは新婚インポテンスである。すなわち、見合い結婚が多く、性的なことは男性がリードすべきという概念がいまだに強かった時代に、緊張傾向の高い男性が、初回、多くは結婚式の夜に、十分にうち解けていない相手と初めて試み、勃起が持続せず、結合できず、次の日以降も、それが気になって緊張が高まり、うまくいかないのが持続して、勃起不全となってしまうのが典型的な成り立ちである。
こうした人たちの多くは、自分が勃起不全であることを恥じ、何とかしなければならないと自ら治療機関を探し、問題に正面から取り組もうとする。緊張しやすいという性格傾向は生育歴によってつくられたものであろうが、治療はそこに深く踏み込むことなく、行動療法を主としたもので、比較的簡単に解決にいたる。離婚寸前で駆けつけた場合でも、2人で問題を乗り越えたと言うことで、夫婦仲も良くなる。
2.マザコン
心理的葛藤が根底にあって、勃起不全を起こす人たちがいる。俗にマザコンといわれる、母との結合が強い場合もあるが、それだけではない。たとえば支配的な母親を疎んじ、女性との親しい関係を求めなかったり、あるいは、長い間、怒りや恨みといった破壊的な感情を抑える形で適応してきたため、人と親密になる、親しくなるという感情そのものを育て損なっている人もいる。
性的には問題があっても、有能で、社会的には十分に適応しており、家庭でも、日常生活レベルではパートナーと仲良く暮らせている。こうした人たちは、性的にうまくいかないことを問題と捉えており、自分に何らかの問題があることをよく理解している。しかし、あるいは、だからというべきかも知れないが、治療には抵抗があり、相談に行きたがらない。
3.回避型人格障害
対人関係を持ちたくないために勃起不全になっている人たちである。性関係は親密な関係を結ぶことであるが、親密な関係を持つことは傷つく可能性もある。傷つくことを恐れて深い関係を持とうとしないのである。これは妻とだけではなく、人間全般に対しても同様であり、妻に対しても性的関係だけではなく日常レベルでも親しい関係を持たない。これでは、性の問題というよりは、問題に直面しないという態度に不信感が高まり、いろいろな問題が起きたとき2人で解決していくという態度は期待できない。
4.セックスレス
性欲不振とは、性反応の基本にある性欲の障害の一般用語である。性欲そのものがない場合でも、対象が女性あるいはパートナーに向かない場合でも、セックスレスになる。セックスレスとは、個人が性的活動をしないことではなく、カップル間に一定期間性行為がないことを指している。
セックスレスの増加がいわれだしてから久しいが、かつては、うまくいかない性行為にプライドが傷ついたり、妻とのトラブルにうんざりして、次第に性欲を失っていくというケースが多かった。
言葉を換えて言えば、勃起障害の副産物としてのセックスレスが主であり、勃起障害が解決すればセックスレスも消失した。しかし、最近は回避型人格障害によるものや、性欲減退によるケースが多くなってきている。
金子和子「最近の夫婦における性の悩み」
日本赤十字社医療センター臨床心理士
「心と社会」31巻4号 2000 102
日本精神衛生会
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