エコノミークラス症候群という突発的な病気が、一般に知られるようになったのは、さほど古い話ではない。海外旅行で空港に着いた途端、呼吸困難に陥って意識を失ったり、時には命を落としたりする。
飛行機の座席に長時間、同じ姿勢で座っていると、脚の静脈の血流が停滞、血栓ができやすくなる。飛行機を降りて歩きだすことで血流がよくなり、肺動脈に流れ込んだ血栓が血管を詰まらせて起こるという。
サッカーの高原直泰選手が、この病気で、2002年のワールドカップを棒に振ったことを思い出す人も多いだろう。広く知られるきっかけになったが、発症が何も航空機に限らないことを、私たちは04年の新潟中越地震で、あらためて知った。
車で寝泊まりしていた被災者に、この病気で死亡する例が相次いだのである。狭い場所で窮屈な姿勢でいるのが原因だった。手術後、患者をできるだけ早く歩かせるのも、血栓を防ぐ理由からだろう。
今度の能登半島地震で、石川県は予防冊子を配布して注意を呼び掛けているが、避難所生活を送っている被災者を、テレビで見ても、足踏みをしたり互いに肩をたたき合うなどしている様子が映し出されている。中越地震の教訓が生かされているといってよい。
被災地にはボランティアも続々入っているようだ。被災者と向き合う中で、彼らは、多くの課題を見つけ出すはず。これを新たな教訓に、災害時の避難生活を日常の暮らしに近いものにしていく。これが行政の務めでもある。
2007年3月30日高知新聞
小社会
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