介護難民

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◇第3部 療養不安
 介護の現場の一部で、「老健わたり」と呼ばれる高齢者がいる。自宅で暮らすのは難しく、特別養護老人ホーム(特養)にも入れない。仕方なく介護老人 保健施設(老健)を渡り歩く人たちだ。
 東京23区内に住む女性(91)は2008年に背中を痛め、歩けなくなった。それから3カ所の老健を転々としてきた。

 ふりだしは病院の紹介で入った埼玉県の老健だった。「特養とちがい、終身 いられる施設ではありません。医師が3カ月ごとに退所の判断をします」。入る前にそう言われた。
 車いすから立つ訓練などを受け、半年たったときに退所を求められた。だが、 自宅には戻れなかった。

 当時の要介護度は2番目に高い「4」。すでに夫を亡くし、息子夫婦と同居 していたが、昼間は2人とも仕事があり頼れなかった。
 特養はどこも多くの高齢者が入居待ちの状態だった。息子の妻が23区内の 老健を探し回り、ようやく顔なじみの職員がいる老健に入れた。そこも1年半 で出され、紹介を受けていまの老健に
移った。

 それから約4年半たつ。この老健の相談員によると、足の炎症で入院したり 食道のヘルニアになったりして、「出すに出せなかった」という。
 だが、ずっといられるわけではない。「様子をみて、今年半ばには移ってもらうことになると思う」と相談員はいう。

 老健は介護を受けることもできるし、医師や看護師がいてリハビリも受けら れる。自分で払う費用は特養より少し高いが、有料老人ホームより安くすむ。 ただ、けがや病気などを療養して
回復させる のが目的なので、本来は長く入り 続けることができない。
 しかし、自宅に帰れず、特養も入れずに老健に長くいる人は少なくない。

 ■100歳、入退所3回
 東京23区内のある老健では、100歳の男性が13年夏に入ってから、これまでに入退所を3回繰り返している。近くに住む70代の娘の家で1〜2カ 月過ごし、
また戻ってくる。

 「こちらからお願いしていったん出てもらう」と職員は明かす。その理由は、 介護保険から払われる報酬の仕組みにある。

 政府は12年度に介護報酬を改定し、自宅に帰る人を増やしたり、新しい高 齢者を多く受け入れたりした老健ほど報酬を加算するようにした。

 厚生労働省は、施設が足りなかったり介護報酬がふくらんだりしているので、 在宅介護を増やそうとしている。老健にいる高齢者も帰そうと促す。

 しかし、100歳の男性が70代の娘の家に帰っても、介護は容易ではない。 職員は現実と政策のギャップに悩みながら、出戻りの男性を受け入れている。

 1月上旬、秋田県中部のまちは家々の屋根に雪が積もり、正月の松飾りを片 づける人たちの姿があった。  このまちの老健にタノさん(92)は5年ほど入っている。
系列の病院に入院したこともあるが、退院するとすぐに戻った。

 ■平均年齢は83歳
 この老健も半年で出ていくのは3人に1人しかいない。入所者の平均年齢は 83歳。タノさんのように病院と老健を行ったり来たりする人も多いという。

 タノさんは19年前に夫に先立たれ、ずっとひとり暮らしだった。5年前に ベッドから落ちて動けなくなり、車いすの生活に。ひとり暮らしは難しく、「要介護3」の認定を受けて老健に入った。
 2年ほどたったとき、60代の娘は老健の相談員から「そろそろ出て頂いて もいいですか」と打診された。

 調理のパートをする娘は月に数万円の手取り収入しかなく、自分の生活で手 いっぱいだ。老健にはタノさんの年金から月に6万円の入所費を払ってきた。

 娘は特養を探したが、どこも100人以上の入居待ち。有料老人ホームは月 に十数万円かかり、とても入れることはできない。

 自宅に引き取ることも考えた。だが、働きながらタノさんを世話するのは大 変で、老健の看護師からも「引き取れば、あなたが壊れる」と言われた。

 老健の理解を得ながら、その後も母を預けてきたが、いつ出ることになるか わからず、不安が募る。

 「もともと一人で暮らせなくなり入った人が多い。リハビリしても高齢なのでもとの体に戻ることはない。そのまま自宅へは帰せない」。中部地方にある 老健の施設長はそう語る。

 この老健では入所者の平均年齢が00年ごろは80歳ほどだったが、いまは 86歳になった。半年で出る人は2割に満たず、平均の入所日数は約2年3カ 月になる。

 イノさん(94)は89歳のときに入ってから、5年がたつ。両足が悪く、 車いすでの生活だ。「足がはれて痛くて動かないの。息子の嫁も入院したりし て、家に帰っても不自由で動けない。
できれば、ここにずっといさせてほしい」

 施設長は「帰れるのは、介護する人がいたり経済的にゆとりがあったりという条件がそろった人たちが多い。逆に、老健から出た後の環境が整っていない
高齢者も 多い」と指摘する。

 ■「在宅復帰」促す厚労省
 厚生労働省は来年度の介護報酬改定でも、高齢者の「在宅復帰」の割合が高い老健にはより高い介護報酬を払うようにする方針だ。老健には自宅で療養できるような支援も求めていくという。
 老健でつくる全国老人保健施設協会の東憲太郎会長も「いま入所している高 齢者を追い出そうとしているわけではない。ベッドを少しでも空けて、在宅療養する人がショートステイなどで利用する
ニーズにもっと応える努力をしなければならない」と話す。

 厚労省は施設への介護報酬がふくらむのを抑えるため、在宅での介護を重視 している。老健からの退所を促すのもその一環だ。  しかし、老健のなかにも「在宅復帰は幻想だ」という声がある。
老健を出て も行き先が整っていないという現実があるからだ。

 特養は都市部を中心に施設や職員が足りず、入居待ちの高齢者が多い。有料 老人ホームに入ろうにも月に十数万円以上かかる。  ひとり暮らしだったり家族の負担が重くなったりして、自宅に
戻れない人も 多い。実際に、老健から自宅へ帰る高齢者は約3割にとどまっている。

 厚労省は退所の難しい高齢者本人と家族に老健の次の行き先の希望を尋ね、 昨年10月に結果をまとめた。

 通常の老健では、本人は「意思表示が困難・希望なし」が37・6%、 「こ のまま老健」が23・6%、「自宅」が22・5%、「特養」が5・6%だった。
家族は「このまま老健」が50・9%、「特養」が33・4%で、「自宅」 は4・3%しかいなかった。
(松田史朗、本田靖明)

 ◆キーワード
 <「特養」と「老健」>
 特別養護老人ホーム(特養)は自宅での生活が難しい高齢者が入り、介護を受ける。終(つい)のすみかにする人も多い。社会福祉法人の運営が多く、全国に約8千施設(13年度)ある。ただ、
高齢化に 追いつかず、入居を待つ人が約52万人いる。

 介護老人保健施設(老健)の制度は1986年にできた。無料で入れる老人 病院に高齢者が入院し続ける「社会的入院」が問題になり、これを減らすため につくられた。医療法人の運営が多く、
全国に約4千施設ある。国の基準では 在宅への復帰を目指すと定められている。

 特養は医師の常勤を義務づけられていないが、老健はベッド数100床につき医師1人、看護職員9人を配置しなければならない。平均の入所日数は特養 の約4年に対し、
老健は約1年になっている。

 ■介護老人保健施設と特別養護老人ホーム

 <全国の施設数>
   介護老人保健施設  3993カ所
   特別養護老人ホーム 7982カ所

 <ベッド数>
  介護老人保健施設  約35万床
  特別養護老人ホーム 約52万床

 <月間の平均費用(自己負担)>
  介護老人保健施設  約7万8千円
  特別養護老人ホーム 約6万2千円

 <入所している平均日数>  
  介護老人保健施設   313日(1年弱)
  特別養護老人ホーム 1405日(約4年)

 <100床あたりの職員らの配置基準>
 介護老人保健施設  医師1人、看護職員9人、介護職員25人
 特別養護老人ホーム 看護職員3人、介護職員31人

 (施設数、ベッド数は2013年度、平均費用と入所している日数は13年。 厚生労働省の調査などから)


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天王診療所・壽幸園 平成26年12月忘年会






(報われぬ国 負担増の先に)介護老人保健施設 仕方なく「老健わたり」朝日新聞 2015年1月19日(月) 配信

― posted by 大岩稔幸 at 10:39 pm

敬老の日

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長生きを喜べる社会に

 日本人の平均寿命が昨年、過去最高を更新した。男性は初めて80歳を超え80・21歳、女性は86・61歳だった。
 戦後、生活環境が改善され、医学が進歩したおかげで、日本は今や世界トップクラスの長寿国だ。
 65歳以上はほぼ4人に1人となり、100歳以上も5万人を超えている。2060年には男性の平均寿命が約84歳、女性は90歳余りになると予測されており、まさに人生90年時代といえる。
 長生きはそれ自体素晴らしいことだが、もう一つの「寿命」をみると素直に喜べない。
 一生のうち、健康上の理由で日常生活が制限されることのない期間を示す「健康寿命」だ。
 健康寿命は世界保健機関(WHO)が2000年に提唱したもので、単に寿命を延ばすだけでなく、生活の質の向上を重視する。10年時点の日本人は男性70・42歳、女性73・62歳だった。
 これも世界最高水準にあり、年々延びている。だが昨年の平均寿命と比べると、男性で約10年、女性で約13年もの差が生じている。
 この差は、医療や介護が必要になる期間を意味する。健康寿命より平均寿命の延びが大きいため、差が広がる傾向にある。
 寿命が延びても寝たきりや認知症といった状態が長く続けば、つらく感じる人は多いだろう。支える家族にとっても重い負担となる。
 年をとればいろいろな病気を抱えることはやむを得ない。それでも、健康に生きて人生を全うしたいと誰もが願っているはずだ。
 高齢化に伴い、医療や介護にかかる費用も膨らみ続けている。平均寿命と健康寿命の差の拡大は国の財政にも影響する。
 政府は「健康医療戦略」で2020年までに健康寿命を1歳以上延ばす目標を掲げた。実現の鍵は生活習慣の改善だ。生きがいを持ち続けることも欠かせない。自治体や地域も巻き込み、元気な高齢者を増やしたい。


 増える老老介護

 一方で、仮に健康でなかったり、介護を必要としたりしても、本人や家族が安心して暮らせる社会の仕組みが欠かせない。
 介護する人もされる人も65歳以上という「老老介護」の世帯の割合が5割を超えた。団塊世代が高齢化し、ますます広がるとみられる。
 そこに認知症の問題が加わり、事態はより深刻になっている。
 認知症の人は意思疎通が難しかったり、目を離した隙に姿を消したりすることがあり、介護する側の負担が大きい。介護を担うのが高齢者なら、その重みは何倍にもなる。
 介護疲れや将来への絶望感から無理心中や殺人に至る悲劇が相次ぐ。介護を理由に仕事を辞める人も多い。
 「介護の社会化」を目指して2000年度に介護保険制度がスタートした。しかし、家族を頼みとする状況は今なお大きく変わっていない。
 高齢世帯や1人暮らしが増え、家族の介護力は弱まっている。にもかかわらず、膨らむ費用を抑えるため政府は介護の在宅化を掲げている。
 住み慣れた家で最期を迎えたいと望む人は少なくないが、それには在宅医療や介護の体制の充実が必要だ。負担を分かち合い、支え合う。そんな社会に変えていかなければならない。
 15日は敬老の日。長寿を心から喜べる日となるようにしたい。








高知新聞
2014年09月15日
社説より

― posted by 大岩稔幸 at 08:04 am

メメント・モリ

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ミヒャエル・ヴォルゲムート 『死の舞踏』1493年、版画

メメント・モリという言葉をご存じですか。
元々は「生きとし生けるものは必ず死ぬ。だから今を楽しく生きよう」という意味で使われたラテン語ですが、キリスト教の教えが広まり、ペストの流行があったりして「死を忘れるな」の意味で使われるようになりました。

 日本人に二人は一人ががんで死ぬ今、いろいろな物議を醸している「がん放置療法」で有名な近藤誠先生の『医者に殺されない47の心得、医療と薬を遠ざけて、元気に長生きする方法』が第60回菊池寛賞を受賞し、81万部売り上げた。
 この中にリビングウイル(自分が説明できなくなったときの「どう死にたいか」の希望)を書いてみようという章があります。

 自宅で亡くなる人12.4%、病院などの医療施設で亡くなる人80.8%、老人ホームや介護施設で亡くなる人4.3%(2009年厚労省発表)、電話で通報してから救急車が現場に到着するまでの時間平均約8分、通報から医療機関に収容するまでの時間平均約36分(2009年総務省発表)とのことです。

 近藤先生のリビングウイルを引用させていただきます。

「一切の延命治療をしないで下さい。私は今日まで、自由に生きてきました。好きなことに打ち込んで、幸せな人生でした。そして自分らしく人生を終えたいと思っています。今、私は意識を失っているか、呼びかけに少し反応するだけだと思います。すでに自力では、呼吸もほとんどできないかも知れません。このまま命が尽きても、何も思い残すことはありません。だから、決して救急車を呼ばないで下さい。すでに病院にいるなら、人工呼吸器を付けないで下さい。点滴もチューブ栄養も、昇圧薬、輸血、人工透析なども含めて、延命のための治療を何もしないで下さい。すでに行われているなら、すべて止めて下さい。もし、私が苦痛を感じているようなら、モルヒネなどの、痛みをやわらげるケアは、ありがたくお受けします。いま、私の命を延ばそうと力を尽くしてくださっている方に、心から感謝します。しかし、恐れ入りますが、私の願いを聞いて下さい。私は、この文章を、冷徹な意志のもとに書き、家族の了解を得ています。一切の延命治療をしないでほしい。この最後の願いを、どうぞ叶えて下さい。決して後悔しないことを、ここに誓います」。

 救急車を呼ぶかどうか、植物状態でも家族のために生きながらえるべきかどうか、死後の献体や臓器提供の意思表示がないなどの問題点もありますが、一つの考え方だと思います。

 少子高齢化の現代、「国があっての国民だ」という意見が聲發剖ばれていますが、2000年以上国がなかったユダヤ民族や世界中に進出した華僑の例もあります。「国民あっての日本国」のためには社会保障の充実が欠かせません。

 昔から、「医師は国手」とも言われて国のことを考えるのが医師の務めとも言われています。TPPや特区に市場原理持ち込む制度に反対し、子どもたちが日本に生まれてよかったと言えるように、教育費や医療費は無料に、障害者や病人が生活費や医療費に困らないように、そしていつか天寿を全うするその日まで高齢者が住み慣れたふるさとで健康に過ごせるように、私たち医師会員には、連帯と共生の地域医療を構築する義務があるのではないでしょうか。

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                   城北部 小野寺医院 池内 春樹
                   姫路市医師会報
                   No.368 平成23年9月1日発行

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― posted by 大岩稔幸 at 10:55 pm

女性のうつ病について

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 女性のうつ病生涯有病率は、その地域における男性のそれの約2倍に上ると言われている。うつ病の有病率に性差がみられる理由としては、女性ホルモンのモノアミンへの影響や視床下部―下垂体―副腎皮質系 (hypothalamic-pituitary-adrenal axis: HPA-axis) の脆弱性といった直接的な生物学的因子」や、ライフサイクル上に生じるさまざまな心理社会的因子の関与が示唆されているが、決定的な要因はいまだに明らかにされていない。
 性差を問わず精神科診療にはBio-Psycho-Social理論の観点からのアプローチが重要だが、女性の場合は特にここにジェンダーセンシティブな視点を取り込むことで、診断も治療もさらに一段、レベルアップすることができる。
 たとえば、女性の多様な人生行路や主婦・母・職業人といった複数の役割をもつことへの理解、月経や出産および心身の健康などがこの軸の重要なポイントである。

症状からみた女性のうつ病の特徴
 女性のうつ病の有病率が、男性の2倍である事実は、国際的にも普遍的であるとされている。厚労省のデータによれば、わが国においてもうつ病・躁
うつ病(双極性障害)の患者数は男女ともに年年増加しており、女性患者の割合もまた微増している。
女性におけるうつ病の有病率を押し上げている要因としては、
女性の方が症状を訴える敷居が低い
初発年齢が女性の方が低い
一回のエピソードの罹病期間が長い
再発・慢性化しやすいので見かけ上の頻度が高い
女性は疾病に対してより援助探索行動をとりやすい

これらの要因を勘案したとしても、なおうつ病の有病率は女性の方が高いと考えられている。これは、女性は男性と比べて多様性のある人生を送るため、それに伴う心理社会的なストレスも多いことも関連していると考えられる。(図2)

 女性に多く見られる症状としては、非定型うつ状態と身体症状(自律神経症状)がある。非定型うつ状態は過食や過眠、鉛のような体のだるさ、イライラ感などが主症状として現れるものである。また、女性は男性より自律神経症状を中心とした身体症状を前面に訴えることも多い。身体症状の優勢化はうつ病の診断を遅らせる一つの要因となりうる。例えば更年期女性が非定型うつ状態に相応する症状や自律神経症状を訴えた場合、「不定愁訴」として更年期障害の範疇で見過ごされてしまう可能性があるといったことが挙げられる。

女性のうつ状態、うつ病の見立て(図3)
 この図より、鑑別診断・合併症診断から経過型、症候学的特徴、心理社会的ストレスなどすべての過程と、治療において性差の観点が必要であることが分かる。
 鑑別診断や合併症診断で特に注意が必要なのは、女性に多く認められる、あるいは女性特有の身体疾患である。子宮筋腫や子宮内膜症、不妊症、乳がんなどで行われるホルモン療法に伴う気分失調のほか、鉄欠乏性貧血、甲状腺機能障害や膠原病、アルツハイマー型認知症といった女性に多い身体疾患においても抑うつ状態はしばしば認められる。
 うつ状態は身体疾患やその治療の過程でも幅広く出現する症状であり、生物学的・心理社会的両面からの包括的なアプローチが重要だが、中でも女性のうつ状態では女性ホルモン値や甲状腺ホルモン値、血清鉄のチェックは初診の時点での必須事項である。
 月経や妊娠出産に関連するうつ病は、女性特有のうつ病として捉えることができる。また、結婚・出産・子育てやそれらの両立に関する負荷など女性のライフサイクル上で起こるさまざまな危機に加え、DV(ドメスティック・バイオレンス)や性的被害など女性特有のトラウマの影も見過ごすことはできない。

女性特有のうつ
1.月経に関連するうつ病
 月経10日〜数日前から、頭痛、腰痛、腹痛、乳房痛、むくみなどの身体症状や自律神経症状、あるいは抑うつ、不安、イライラ感などの精神症状が出現し、月経の開始とともに症状が消えていくものを月経前症候群(pre-menstrual syndrome: PSM)という。
 月経前不快気分障害(pre-menstrual dysphoric disorder: PMDD)はその重症型として捉えられており、ICD-10では「他の特定の気分障害」に分類されている。PMDDの症状はPMSに比べて身体症状よりも精神症状が優位であり、反復性の感情コントロール不全やアルコール過飲、性的逸脱行動などで事例化することもある。治療はPSM、PMDDともに疾患に関する心理教育や運動、食事療法によるセルフケアの強化のほか、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitors: SSRI)による薬物療法が有効とされる。漢方薬も頻繁に使用されている。

2.妊娠とうつ病
 妊娠がうつ病にとってリスクであるかどうかの結論は出ていないが、妊娠期とは「女性にとって幸福を感じる時期」であるため精神疾患が増悪することは少ないとの意見が趨勢であり、妊娠とうつ病をキーワードとする研究領域では、産後うつ病のほか、妊娠中の服薬によるリスク、あるいは薬剤の乳汁移行などのテーマに関心が集まりやすかった。
 しかし、近年の研究から、妊娠中のうつ病は産後うつ病発症の危険性を3倍に高め、また出産前のケアを不十分にし、妊婦の低栄養状態、自殺とも関連が深いことが指摘されるようになるなど、楽観できるものではないことが分かってきている。
 妊娠期のうつ病は早産や低出生体重児の危険性をはらむことがあり、患者にとっても胎児にとっても十分な治療が必要であることは言うまでもない。
 一方、妊娠中の薬剤暴露の問題もまた看過されるべきではない。現在、妊娠期の薬物治療に関して一定の判断基準は存在しないが、うつ病に限らず妊娠期に薬物を使用する際には、これまで蓄積されたデータに基づき、胎児への薬物暴露の影響を最低限にしながら母体の精神の安定を目標にした治療が日値様になる。
 薬物を中止した場合、最も懸念されるのは、やはりうつ病の再発であり、妊娠時や妊娠初期に薬物療法を中止した女性の75%に大うつ病の再発をみたとの報告や、近年では重症うつ病の既往のある全対象集団の43%が治療中止後妊娠期間中に再発をみたとの報告もある。

3.産後のうつ病
 DSM-IV-TRでは、産後うつ病は「産後の発症の特定用語」の中で「産後4週間以内に発症した気分障害」として定義されているが、いつまでを「産後」とするかは研究者や診断基準によって異なる。おおむね産後6週間前後(多くは2〜5週目)までに発症するものを産後うつ病とすることが多い。鑑別を要するものに、マタニティー・ブルーズ、産褥期(産後)精神病がある。
 マタニティー・ブルーズは分娩後3〜10日の間に起こる。理由のない涙もろさ、気分の落ち込み、過敏性の亢進、情緒不安定であり、通常は自然軽快する。
 産褥期精神病は分娩後2〜3週間に生じる急性精神病状態であり、産後うつ病から移行することがある。産後うつ病の治療としては、既往をもつ女性では産後直ちに抗うつ剤治療を開始することが推奨されている。
 授乳に関しても、妊娠初期の服薬と同様のジレンマが起こりやすい。なぜなら、ほとんどの抗精神病薬は母乳中に移行するからである。この母乳中への移行の問題は妊娠初期における催奇形性の問題と同様に現時点では明らかに有害という報告は少ないが、安全であるという保障はない。うつ病の再発は育児にも多大なダメージを与えるため、安易な服薬中止は避けるべきである。

4.閉経期(更年期)におけるうつ病
 40〜50代の更年期にあたる女性のうつ状態をみたときは、「更年期障害としての抑うつ状態」と「更年期に発症したうつ病」の双方の視点を持つことが重要である。具体的には、月経パターンや身体症状、精神科および婦人科の既往歴を確認し、他疾患の鑑別に並行して血液検査で女性ホルモン量を測定する。
 その数値から更年期障害が疑われる場合やホットフラッシュなどの血管作動性症状があれば、ホルモン補充療法などの更年期障害の治療を優先する。
 一方、抑うつ症状が明らかであったり、性ホルモンが更年期パターンでなかったりする場合には抗うつ剤(SSRI・SNRI)などの抗うつ剤治療を先行する。
うつ病に更年期症状が重なることで、更年期女性のうつ症状が複雑、遷延化する可能性も考慮すべきである。

女性のうつ病に対する薬物治療のポイント
 女性に限らず、うつ病患者に抗うつ剤を処方する際には、有効性と忍容性の面から女性にとって有用性の高い薬物を選択していく工夫が必要である。
 その一つは薬物相互作用の少ない薬剤の選択である。女性に多い疾患として乳がんや片頭痛があるが、SSRIと併用注意となっているものがある。また、肩こりに処方される筋弛緩薬の一部も同様である。
 さらに、服薬アドヒアランスを妨げるものに体重増加や月経不順があるので、これらにも注意を向けるべきである。最初に処方される薬は薬物療法全般への印象を決定づけやすい。その後の薬物療法へのモチベーションも見越した上で適切な薬剤を選択したい。

おわりに
 近年、うつ病の多様性とその個別治療の重要性が叫ばれるようになったが、患者が女性である場合には、さらに患者個々の生物学的側面や心理社会的側面にも配慮した、包括的・大局的なアプローチが必要である。

女性のうつ病を診療する場合のポイント
1. 生物学的性差・心理社会的性差を考慮した見立てと治療
2. 甲状腺機能障害を見落とさない
3. 月経前症候群・月経前不快気分障害、産後うつ病、更年期うつ病は
女性に特有なうつ病である。妊娠中のうつ病も軽視できない。
4. 治療には有効性と認容性の両面からSSRIが第一選択薬となるが、
中でも薬物相互作用や体重増加、月経不順といった副作用が少ない薬剤
の選択が望ましい。

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だまし絵 サメが6匹いるらしい












監修:東京女子医科大学付属女性生涯健康センター 所長
   加茂 登志子 先生
もっと知りたい うつ病のこと

― posted by 大岩稔幸 at 10:54 pm

虚偽メニュー

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「誤表示」が示す甘い認識

食品の不適正な表示が後を絶たない。今度は大手のホテルグループで判明した。

阪急阪神ホテルズが運営する東京、関西圏のホテルやレストラン23店舗で、長期にわたってメニューの表示とは異なる料理が提供されていた。グループ別会社のホテルでも同様の事例があった。

同社の出崎社長は「従業員が意図を持って表示し利益を得ようとした事実はない。誤表示だ」と強調する。しかし、意図した「偽装」でも、説明通りの「誤表示」だとしても結果は同じだろう。

消費者は表示から多くの情報を得て対価を払っており、その前提を裏切ったことに違いはない。信頼を売りにしているはずのホテルが失ったものはあまりに大きい。

同社によると、冷凍品を鮮魚やフレッシュジュースと表示したほか、一般的な野菜や肉を有名ブランドや有機などとしていた。いずれも食材の付加価値が高くなるよう表示している。全体として原価率は下がり、より利益が出る形だったのは明らかだ。

不適正な表示は2006年3月から7年半にも及び、利用者は延べ8万人近くに上るという。「被害」の大きさからして、もはや意図のあるなしという範囲を超えている。

原因に対しても、ホテル側の認識の甘さが透けて見える。「従業員が無知、無自覚だった」と説明するが、これだけ広くグループ内で虚偽表示が横行していれば、個々の店舗の問題ではないだろう。病根は深いといえ、グループの運営の在り方、体質が問われている。

事態を把握した後も、同社の対応には首をかしげざるを得ない。社内調査は6月からだったが、9月まで「誤表示」は続く。消費者庁への報告は今月7日で公表はさらに2週間遅れた。

公表前には食材に合うように一部のメニューを書き換えたことも分かっている。消費者目線の乏しいこうした姿勢では代金を返却したところで、信頼の回復は図れまい。

消費者庁は景品表示法に違反するかどうかの調査に入っている。このところ、三重県の米穀販売会社による産地偽装など問題が相次いでいる。消費者の食への信頼をつなぎ止める意味でも、徹底した実態解明と厳正な対処を求めたい。











2013年10月27日付け
高知新聞社説

― posted by 大岩稔幸 at 12:15 am

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