いじめ

いじめ自殺訴訟判決要旨 東京高裁

 栃木県鹿沼市の中3いじめ自殺訴訟の控訴審で、東京高裁が3月28日、言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【事案の概要】

 当裁判所は、いじめの事実、いじめを阻止しなかったことへの教員らの安全配慮義務違反、いじめと自殺との因果関係は認めた。しかし、同義務違反と自殺との因果関係を認めるには足りないと判断し、いじめにより受けた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料および弁護士費用について賠償請求を認容すべきと判断した。

 【いじめについて】

 臼井丈人君は2年3学期ごろから嫌がらせを受けて不登校の兆候を示し、3年1学期にはプロレスごっこなどと称した暴行を受けて過ごした。

 2学期には目立つ暴行を受けることが減り、休み時間中、机上にうつぶせになっていることが多くなったが、学校生活が針のむしろに座るに等しい状態であったことに変わりはなかった。

 1999年10月26日、遠足の際に級友にリュックサックを奪われ、押し倒され、弁当も食べないで帰宅した。11月1日、強い登校拒否の意思を示し、6日ごろから自室で日中もカーテンを閉めて過ごし、食事もとらなくなった。遠足の出来事は、丈人君の忍耐の限界を破る契機となったと推認される。

 丈人君は3年に進級後、継続的な暴行によるいじめを受け、次第にクラスの中で救いのない状況に陥り、2学期以降、息を潜めるようにして登校を続けていたが、孤立感を深め、遠足の出来事を契機として、生きること自体にも執着しなくなって登校することを止め、自殺するに至った。

 暴行が自殺の重要な契機の一つとなったことは疑いないが、理不尽な暴行を阻止せず、被害の継続を放置した級友のひきょうな態度もそれ自体がいじめとして丈人君が孤立感を深め、自殺に至った一つの原因になった。

 【教員らの安全配慮義務違反】

 丈人君の学年は2年生当時から授業崩壊の様相が危惧(きぐ)されていたことなどから、教員らは3年1学期には生徒からの事情聴取などにより、丈人君が理不尽な被害に遭っていた事実を知り得た。

 教員らは加害生徒をいましめ、暴行を傍観した生徒には被害生徒の心の痛みと、傍観することもいじめにほかならないことを理解させ、いじめ被害解消のための指導、監督の措置を講じる注意義務を負っていた。

 しかし、教員らは暴行ではないと速断し、加害生徒への指導もしかりもせず、その後も丈人君が暴行を受けるのを阻止できなかったのであり、4月23日から7月末ごろまでいじめを阻止する措置を講じなかったことについて安全配慮義務を怠った過失がある。

 教員らが2学期以降のいじめの継続を観察し、兆候を把握するように努めていれば、状況を的確に把握することができたのではないかと惜しまれる。しかし、夏期休暇期間がはさまれ、2学期は目立った事件がなく、丈人君の状況を改善する具体的措置を講ずるべき安全配慮義務を負っていたとまでは認めがたい。

 【安全配慮義務違反と死亡との因果関係】

 丈人君が1学期が終わるまでほぼ毎日のようにいじめを受け、肉体的、精神的苦痛を被ったことは、教員らの安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害に当たる。

 丈人君は10月末までにも暴行を数回受け、クラス内で孤立を深め学校生活に強い苦痛を感じ、11月に登校しなくなった時点では長期にわたるいじめを誘因としてうつ病にかかっており自殺に至った。1学期終了までのいじめは暴行による苦痛だけではなく、継続的に人間としての尊厳を踏みにじるような辱めを加えるもので、いじめを傍観し、時には加担した同級生の態度も加わって極めて強い精神的負荷を丈人君に加えるものだった。

 だが、丈人君が1学期終了時にうつ病にかかっていたとまでは認められないこと、暴行自体は深刻な傷害を負わせるものではなく、いじめによる精神的苦痛が他者から把握しにくい性質のものであったことを考えると、教員らが1学期当時、丈人君がいじめを誘因としてうつ病にかかることを予見し得たとまでは認めるに足りず、教員らの安全配慮義務違反と、うつ病および自殺との間に相当因果関係を認めることはできない。
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― posted by 大岩稔幸 at 11:29 pm

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