シリア対応

シリア介入は正当性を欠く     孫崎 亨
シリア情勢が緊迫の度を増している。国際社会と米国、それに日本はどう動くべきなのか。集団的自衛権の行使容認に傾く日本の情勢も含め、元外務省国際情報局長で評論家の孫崎亨氏に聞いた。

―米国のシリア介入の動向をどう見るか
「シリア軍による化学兵器を米国は軍事介入の根拠にしているが、その正当性に疑問がある。米国は(1980年開戦の)イラン・イラク戦争時、化学兵器を使用していたイラクを支援していた。米国自体が、ベトナム戦争で枯れ葉剤を、イラク戦争では劣化ウラン弾を使っている」

―シリアは化学兵器禁止条約違反だと米国は主張している
「こういった条約は違反時の制裁措置を定めていない。他方、国連憲章で軍事行動を認めているのは、自衛権を行使する時と国連の安全保障理事会が決議した時だけだ。今回は安保理の決議もなく、法的根拠は薄い」
「2001年(米中枢同時テロ)以降のアフガニスタン攻撃やイラク戦争では、正しかったかどうかの議論は別にして、(米国の立場からすれば)ある意味で自衛が成り立っていた。今回のシリア攻撃は米国の自衛と何の関係もない。これまでになく、正当性に欠ける」

―日本は今回も米国を支持している
「賛同すれば米国との関係はプラスになるかもしれないが、マイナスも考えなければいけない。賛同すると、国際社会の中で突出して米国支持に回る形になり、シリア介入に反対のエジプトやレバノン、イラクなど中東各国から敵視される。(テロ対策の視点から言えば)交通機関も主要な建物も無防備な日本がそういう危険な状態に立ち入るべきではない」
「(仮に日本と敵対する)北朝鮮が何か軍事的な行動を起こしたとしても、米国は北朝鮮の動向を見て行動を決める。日本が米国のシリア攻撃を支持したからとかは(米国の決断には)全く関係ない」

―日本では、憲法解釈を見直して、集団的自衛権の行使を容認する可能性もでてきた
「基本的に、集団的自衛権は日本を守ることと全く関係ない。(新任の)小松一郎内閣法制局長官『隣の家に強盗が入り、人殺しをしようとしている。この場合、日本の刑法では正当防衛であると認められる。同じように国際的にも認められるべきだ』と話している。集団的自衛権はまだ強盗になっていない人にも適応される、という点に問題がある。あなたの家に出刃包丁がある、強盗するための出刃包丁だ、となれば、本人の行動が確認される前に、自衛権を発動できてしまう。これだけ重要な問題をそういう詭弁でやろうとしている」
「北朝鮮が米国に向けてミサイルを発射しようとするとき、日本の先制攻撃を容認する。それが集団的自衛権。そして日本が先制攻撃したら、北朝鮮も何らかの反応を示す。そういう意味で、集団的自衛権の行使容認は、日本の安全保障を非常に弱めるものだ」

―先制攻撃容認なら憲法は形骸化する
「過去に米国から軍事行動への参加を求められた時も、日本は『(戦争放棄をうたった)憲法があるから』と切り抜けてきた。憲法解釈の見直しで集団的自衛権の行使を容認することは、外交上の唯一の武器を捨てるようなものだ」


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2013年9月8日(日)
高知新聞朝刊より

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― posted by 大岩稔幸 at 09:39 am

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