長生きを喜べる社会に
日本人の平均寿命が昨年、過去最高を更新した。男性は初めて80歳を超え80・21歳、女性は86・61歳だった。
戦後、生活環境が改善され、医学が進歩したおかげで、日本は今や世界トップクラスの長寿国だ。
65歳以上はほぼ4人に1人となり、100歳以上も5万人を超えている。2060年には男性の平均寿命が約84歳、女性は90歳余りになると予測されており、まさに人生90年時代といえる。
長生きはそれ自体素晴らしいことだが、もう一つの「寿命」をみると素直に喜べない。
一生のうち、健康上の理由で日常生活が制限されることのない期間を示す「健康寿命」だ。
健康寿命は世界保健機関(WHO)が2000年に提唱したもので、単に寿命を延ばすだけでなく、生活の質の向上を重視する。10年時点の日本人は男性70・42歳、女性73・62歳だった。
これも世界最高水準にあり、年々延びている。だが昨年の平均寿命と比べると、男性で約10年、女性で約13年もの差が生じている。
この差は、医療や介護が必要になる期間を意味する。健康寿命より平均寿命の延びが大きいため、差が広がる傾向にある。
寿命が延びても寝たきりや認知症といった状態が長く続けば、つらく感じる人は多いだろう。支える家族にとっても重い負担となる。
年をとればいろいろな病気を抱えることはやむを得ない。それでも、健康に生きて人生を全うしたいと誰もが願っているはずだ。
高齢化に伴い、医療や介護にかかる費用も膨らみ続けている。平均寿命と健康寿命の差の拡大は国の財政にも影響する。
政府は「健康医療戦略」で2020年までに健康寿命を1歳以上延ばす目標を掲げた。実現の鍵は生活習慣の改善だ。生きがいを持ち続けることも欠かせない。自治体や地域も巻き込み、元気な高齢者を増やしたい。
増える老老介護
一方で、仮に健康でなかったり、介護を必要としたりしても、本人や家族が安心して暮らせる社会の仕組みが欠かせない。
介護する人もされる人も65歳以上という「老老介護」の世帯の割合が5割を超えた。団塊世代が高齢化し、ますます広がるとみられる。
そこに認知症の問題が加わり、事態はより深刻になっている。
認知症の人は意思疎通が難しかったり、目を離した隙に姿を消したりすることがあり、介護する側の負担が大きい。介護を担うのが高齢者なら、その重みは何倍にもなる。
介護疲れや将来への絶望感から無理心中や殺人に至る悲劇が相次ぐ。介護を理由に仕事を辞める人も多い。
「介護の社会化」を目指して2000年度に介護保険制度がスタートした。しかし、家族を頼みとする状況は今なお大きく変わっていない。
高齢世帯や1人暮らしが増え、家族の介護力は弱まっている。にもかかわらず、膨らむ費用を抑えるため政府は介護の在宅化を掲げている。
住み慣れた家で最期を迎えたいと望む人は少なくないが、それには在宅医療や介護の体制の充実が必要だ。負担を分かち合い、支え合う。そんな社会に変えていかなければならない。
15日は敬老の日。長寿を心から喜べる日となるようにしたい。
高知新聞
2014年09月15日
社説より
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