食の安全性

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中国の「食の安全」をめぐるニュースに「うーむ」と考え込む。こと「食」に関してこの国は、世界一とも言える伝統と文化を誇ってきたのではなかったか、と。

「食は広州にあり」などという多様な地域性、絢爛(けんらん)豪華な満漢全席から市場に並ぶゲテモノまで、その豊かさ、奥深さは古今東西の健啖家(けんたんか)をうならせてきた。例えば作家の檀一雄は、町の小路に並ぶ「粗末な食堂か点心屋の一品」さえも「一筋縄の調理や味覚ではゆかぬ」と書いた(「美味放浪記」中公文庫)。

せいろに並んだ包子(パオズ)をパクリとほおばると、ジュワーッとスープが口中にしみ出る。スープは煮こごり状にして、粉皮に包み込んでおき、それを蒸し上げていた。現代の日本のグルメ番組にも出てきそうな点心だろう。

段ボール紙入りの肉まんとの何たる落差か、と驚いていたら続きがあった。問題を報じた中国のテレビ局が「やらせ」を認めて謝罪した。段ボール肉まんは「うそだったからよかった」とならないのが怖いところで、こうなると何を信じていいのか分からなくなる。

中国政府も、問題のある輸出企業のブラックリストを公表したりして、信頼回復に躍起だ。温家宝首相も河野衆院議長に安全の強化を表明した。しかし、北京五輪を一年後に控え、国の体裁を一番に考えているようにも見える。

偽装牛肉や食のやらせ番組を出して偉そうには言えないが、土台からの改革が必要だろう。「食は中国にあり」と国民が誇りと自信を持って働く、そんな国づくりだ。

食肉加工販売会社「ミートホープ」の田中稔社長が同社の自己破産を札幌地裁苫小牧支部に申請した。負債総額は約六億七千万円に上る。

取引先から商品の返品や取引中止が相次いだ上、取引先の食品会社から多額の損害賠償を求められ、事業継続が困難となった。系列会社の飲食店などへの影響も懸念される。

豚肉などを混ぜたひき肉を「牛ミンチ」として出荷していた問題に端を発した同社の偽装は、産地偽装、賞味期限の改ざんなど底無しの様相となった。農水省の立ち入り検査の結果、不正は約二十四年前から始まり、十以上の手口が大掛かりに行われていたことが分かった。

「食の安全」を揺るがせ、行政のチェック機能に対する不信を招き、約七十人の従業員は唐突に解雇を言い渡された。消費者や従業員をないがしろにし、利潤のみを追求する一人の経営者が残した「負の遺産」はあまりにも大きい。

なぜ、これほど長い間不正がまかり通ったのか。田中社長は偽装の指示に従わなかった工場長を、社員が整列する前で「もっと頭を使え、ばか野郎」とののしっていたという。

年間売上額十六億五千万円の同社は、地元北海道苫小牧市の有力企業であり、貴重な雇用の場だった。経営者という圧倒的な力を盾にした部下への「パワーハラスメント」が横行し、もの言えぬ雰囲気がまん延していたことも、不正が長期化する要因になったと想像できる。

それだけに、内部告発を受けながら、北海道との連携不足で放置してきた農水省の責任は重い。

農水省は日本農林規格(JAS)法に基づく食品表示義務の適用対象を、卸売りなど業者間の取引にも広げることを検討する初会合を開いた。

表示義務は消費者へ販売する小売店などに限られ、対象外だと多くの業者を経由するうちに原材料を確認しづらくなる傾向があった。品質管理の徹底を促すことで、食への信頼を回復させたいという狙いがある。

それにはあくまでも表示に不正がないことが前提となる。表示が本来の信頼の証しとなるには、偽装業者により重い罰則を科したり、第三者による立ち入り調査など、厳しい姿勢が求められよう。

消費者は表示に裏切られ続けてきた。失った信頼を回復するために、業界、行政は不正根絶を誓うことから出発しなければならない。消費者をだまし続けられる時代ではない。

― posted by 大岩稔幸 at 09:48 am

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