軽症うつ病

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外来治療可能な内因性うつ病
 抑うつ等の症状が、軽度あるいは顕著ではないことが特徴である「軽症うつ病」が、しばらく前から増加しているとされている。

 軽症うつ病の象徴的なエピソードとしては、意欲のわかない状態が数ヶ月前から続いているが、仕事や家庭のイベントを休むほどではない。「定年退職して再就職したのに以前の調子が出なくなった」「些細な出来事が心のトゲになりいつまでも気にしてしまう」・・・といったものが挙げられる。この程度の症状だと、患者は精神科や心療内科を受診するほどではないと自己判断してしまいやすい。

 軽症うつ病の詳細なメカニズムは明らかになっていないが、経過は3〜6ヶ月以上と長く、不安と抑うつ気分、抑制(おっくう)という精神症状が混在する。うつ病の原因分類としては内因性であり、前駆する明らかなストレス因子などはないことから、患者説明には「心理的疲労」という用語が利用される。抑うつ症状は軽度であり、外来で十分治療可能なことから、「外来うつ病」とも呼ばれる。

 軽症うつ病患者に多く見られる性格は、「まじめ」「几帳面」「責任感が強く頑張り屋」である。それまで比較的良い社会適応をしてきた人が多いが、執着傾向のある人が罹患しやすい傾向が認められる。

 なお、最近の若年層に多く見られるジスチミア(気分変調性)親和型うつ病とは性格傾向が大きく異なっており、現時点では別の状態と位置づけるべきであろう。


うつ病とは異なる、軽症うつ病の「主訴」(図1)

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図1 軽症うつ病の主な症状









 うつ病の症状は、主に
1. 抑うつ気分(気分が滅入る、楽しめない)
2. 意欲の低下(無気力、おっくう)
3. 考えが浮かばない(決断できない、優柔不断)
4. 身体症状(主に自律神経症状)

 軽症うつ病がどのような主訴で受診しているのか調べると「不眠」が最も多く、続いて「易疲労感」「頭重・頭痛」「腹痛」「肩こり」「腰痛」といった身体症状であった。

 軽症うつ病の抑うつ症状は軽度であるが、一方で臨床症状が身体化しやすい傾向がみられる。「頭痛」「めまい」「不眠症」「自律機能低下症」「更年期障害」「低血圧症」「心臓神経症」「胃腸神経症」「胃下垂」「慢性胃炎」「胃アトニー」「過敏性腸症候群」「過換気症候群」「糖尿病」「認知症」などの病名を持っている場合や、そのような症状を訴え、長期間治療を受けているにもかかわらず改善しない患者は、その裏に「軽症うつ病」が隠れている可能性がある。


うつ病をめぐる氷山現象
 軽症うつ病の診断手順は「2週間以上続く、軽い抑うつ気分と興味・喜びの喪失があり、睡眠障害、食欲不振、体重減少、頭痛や筋肉痛、易疲労感、性欲減退、便秘、動悸、肩こり、めまい等の自律神経症状を呈しており、理学的所見や諸検査において症状に見合うだけの器質的疾患が認められないケースで、さらに日内気分変動が存在する病気」となっている。したがって、患者の足は一般診療科に向かいがちである。

 うつ病の「氷山現象」とは、うつ病患者が精神科や心療内科の専門医を受診する割合が極めて少なく、その大部分はプライマリ・ケア医を訪れているということを表現した言葉であるが、軽症うつ病では特にこの問題を軽視できない。

 それでなくても、精神領域を専門としない医師にとって、うつ病診断は診断や重症度の判断が難しい。抗うつ剤の使用方法がわからない、時間がかかる、自殺や希死念慮がからみ扱いにくい、などの理由で気の重い患者である。共存する身体疾患がある場合、特にうつ病を見逃しやすいという問題もある。

 そのため、適切な診断がされていない、診断がされていても適切かつ充分な治療が行われていない軽症うつ病患者は相当数にのぼると予想される。


軽症でも適切かつ十分な治療が必要
 正しく診断されていても適切かつ十分な治療が行われていないことに関しては、近年興味深いデータが報告されている。(図2)

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図2 抗うつ剤またはプラセボによる治療後のHAM-D変化量と回帰直線


 解析結果から、軽症で外来治療が可能といっても漫然と薬物投与を行うだけでは改善が得られないという軽症うつ病の現実が凝縮されている。軽症といっても、うつ病治療の基本である精神的休養と心理的サポート、適切かつ十分な治療が必要であることの証左といえる。

 うつ病の80〜90%を占めると言われている「軽症うつ病」患者に対して、正しい診断と適切な治療が行われることを期待したい。


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Cymbalta Journal
2013年6月作成
監修:東京大学 名誉教授 久保木 富房 先生

― posted by 大岩稔幸 at 11:02 pm

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