身体に悪い音楽

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最近、日本酒を仕込む酒蔵ではモーツアルトの音楽が流れているそうである。なんでも「麹菌」の発育によいそうで、同じようなことが人間にもあてはまるらしく、そうした特別番組がテレビで放映されたこともある。

なんでもモーツアルトの音楽はヴィヴァルディの『四季』と並んで「高周波・ゆらぎ・協和音」のバランスが最もよいのだそうだ。さしずめ「身体に良い音楽」ということになろうか。

では「身体に悪い音楽」というと、なにかということになるが、イメージの上ではハードロック、ヘヴィメタルetc. 90年代の若者に流行した音楽が頭に思い浮かぶが、確かに当時、植物にこうした音楽を聞かせて発育状況を観察する実験がなされ、明らかに枯れるのが早かったということだ。前出のモーツアルトの音楽が麹菌の発育によいというのもこうした実験の積み重ねの上に出て来た結果であるらしい。

裏返しで「低周波・規則的・不協和音」の多い音楽が身体に悪いということになるが、まさにそうした音楽を書いたのがバッハである。実際、90年代にされた植物実験で、バッハのオルガン曲を流し続けたところ、ハードロック、ヘヴィメタルと同じく枯れるのが早かったということだ。『G線上のアリア』のニックネームで有名な、あの宇宙の調和を表現したかのようなたおやかな名曲、バッハの管弦楽組曲第3番に含まれる『アリア』にしても不協和音の点ではあまり変わらないということらしい。

ところが、そんな身体に良い音楽を数多く残したモーツアルトはといえば、35歳で夭折してしまい、バッハは同時代の作曲家で友人でもあったテレマンの86歳には及ばないものの、衛生状態が良いとは言えない当時に65歳まで生き延びている。

身体に良い音楽を書いた作曲家が、身体に悪い音楽を書いた作曲家より短命というのは、まことに皮肉なことだが、さらにバッハは愛煙家で、自ら作詞、作曲した『パイプの歌』というリートでは、パイプ煙草への愛着と信心深い考察が安らかなメロディーに乗せて語り歌われる。まさに『健康増進法』が施行され、分煙の名の元に公共施設から追い出され、社会の隅へと追いやられる愛煙家にとって『ささやかな抵抗歌』となりえるものである(笑)。

確かに健康によいものはよいもので、その作曲者が若死にであろうがなかろうがその恩恵に浴するのは我々の特権なのだが、もっともそれは「健康のためなら命を捨ててもかまわない」とでも言うべき現在の健康至上主義的な(精神衛生上はいかにも良くなさそうな)発想でなければの話だろう。

若々しい身体を維持する基本は適度な運動だが、その本質は「筋肉を使って適度に細胞を壊す」ことであって(ちなみに「壊れずに成長し続ける細胞」とは癌細胞のことである)無刺激、無菌状態におくことではないようである。

酒蔵で流す音楽でバッハが選ばれなかったのはその音楽に多く含まれる「不協和音」のせいで「雑菌」が繁殖しやすくなるためなのだそうだが、実際の所、人間は酒蔵で暮らすわけではなく、酒蔵では雑菌でも住宅の中では「常在菌」と名を変えるものも多くあるはずだ。

ところで人間は体内に善玉菌と悪玉菌を養っていて、悪玉菌を減らすことが良いのだとしきりに叫ばれているが、実際はそれほど単純ではないようで、悪玉菌が少なすぎる状態が長く続くと身体の抵抗力が弱まり、かえって微量の悪玉菌が体内に入り込んだだけで体調を崩してしまうこともあるらしい。つまり、いざという時のワクチン(抗体を作らせるための毒素)として悪玉菌を身体の中で養うシステムが出来上がっているということらしい。

さしずめバッハの音楽はこうした悪玉菌を元気にさせて、自らの抵抗力を養う「聞くワクチン」ということになろうか? いずれにせよ、バッハよろしく『美味しい煙草に火を付けて…』吸いすぎと聞きすぎに注意して、ほっと、ひと息つくことにしよう。

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http://www.geocities.jp/go5ka2/table2-2.html Link
身体に悪い音楽 〜煙草好きのバッハ〜

― posted by 大岩稔幸 at 09:58 pm

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