「公」の背信が渦巻いた一年であった。最たるは安倍晋三前首相の政権投げ出しである。
7月の参院選で歴史的惨敗を喫したにもかかわらず、続投を力説、海上自衛隊の給油活動継続については「職を賭す」とまで言い切った。
所信表明演説も行った。その後、一転、各党の代表質問直前、辞意を表明したのだ。国民軽視も甚だしく、一国の最高指導者には考えられない前代未聞の無責任さだった。
健康問題もあったようだが、それは精神的に追い詰められていたからであろう。参院選で「ノー」との民意を受けながら強弁を続け、政権に居座った判断こそが誤りだった。
任命した閣僚から「政治とカネ」の問題、失言が相次いだ。しかし、あいまいな態度で問題の閣僚をかばい続け、政治不信を増幅させた。
国民投票法など重要法案を次々成立させたように強引な政治姿勢に国民は危うさを覚えた。景気回復、格差是正、社会保障など、生活に直結する政策を望む民意と乖離(かいり)していたといえる。
政権にダメージを与えた年金記録漏れ問題も「公」に対する信頼を大きく失墜させた。社会保険庁や市町村の無責任な仕事ぶりは筆舌に尽くしがたい。
福田政権に代わっても「役人」の不正が発覚した。前防衛事務次官の汚職事件である。装備品納入に便宜を図った見返りにゴルフ旅行接待を受け、現金を受領していた。
贈賄側の商社関係者は防衛省に水増し請求を繰り返して裏金をつくり、わいろに使っていた。双方とも税金で私腹を肥やしていたわけだ。捜査は続行しており、防衛利権の闇が解明されることが期待される。
政治家の言葉の軽さも深刻だ。年金記録統合を来年3月までに終えるとしながら、不可能となるや首相は公約を否定するかのような弁明を発し、支持率を下げた。
一方、民主党は参院で第一党となり、政権奪取へ追い風が吹いた。だが、小沢一郎代表が大連立構想に傾いたことで党内が混乱した。変革の機運をとらえる感度の低さを露呈したといえよう。
ただ、そうした中、ねじれ国会の効用も見てとれた。改正被災者支援法や改正政治資金規正法が成立した。協議を始めた段階で与野党の主張の隔たりは大きかったが、国民の視点に立って歩み寄った。
今後の焦点は11月1日で期限切れとなったテロ対策特別措置法に代わり、インド洋での海自による給油活動を再開するための新テロ対策法案の行方だ。首相は国会を再延長し、参院否決でも衆院で再議決する意向だ。与野党の国会攻防は最大のヤマ場を迎える。
不安定な政治状況と同様、経済も不透明感が漂い始めてきた。サブプライムローン問題に端を発した米国経済の減速懸念や原油高で、好調の日本経済に陰りが出てきたとの警戒感が強まってきている。
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