お福様

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 十二支がぐるりと一巡し先頭の子年(ねどし)が明けた。穀物を荒らすいたずら者のネズミだが、昔からめでたいお正月には、かわいがられてきた。

 ネズミという忌み言葉を避けて愛らしく「嫁が君」「嫁子」などと呼ぶ。土地によって「嫁子にも年を取らせる」と言って、お節の残りをネズミの通路に置いておく習慣もあるという。ご存じの通り「嫁が君」は俳句では新年の季語。〈明る夜のほのかにうれし嫁が君〉其角。

 もっとおめでたい呼び名が、「おふくさん」。子どものころの思い出をみずみずしい文章でつづり、夏目漱石に絶賛された中勘助の「銀の匙」(岩波文庫)には「お福様」として描かれる。

 お人よしで優しい伯母さん夫婦は白ネズミのつがいを買ってきて、「お福様 お福様 と後生大事に」育てた。ねずみ算で増えると、なおのことおめでたがって一升升にいり豆を盛ってお供えした。伯母さん夫婦は「白ねずみは大黒様のお使いだ」と言っていた。

 ことわざにも「ネズミは大黒天の使い」とある。正月の縁起物、宝船に乗っている七福神の一人の使いとは、ネズミのめでたさも極まれりではないか。やってきた子年が、米俵に乗って打ち出の小づちを持った福の神の到来を告げると信じたい。

 悪さをするネズミにさえ、時に愛情をもって優しく接した日本人。この国も悪いところばかりが目立つようでも、まだまだ捨てたものではあるまい。身近にある良さを見つめ直す、そんなこの一年であれば。

― posted by 大岩稔幸 at 10:57 pm

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