子どもと貧困

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 派遣切り。ホームレス。無保険。

 急速に悪化する経済状況の中で、日本の社会保障制度が十分なセーフティーネット(安全網)としての機能を持っていないことが次から次へと明らかになっている。

 しかし、どんなに厳しい状況にあっても、「派遣村」の映像にも、貧困撲滅のデモにも、現れない層がある。それが、子どもである。

 子どもの貧困は、2008年秋以降に起こった現象ではない。OECDの推計によると、日本の子どもの貧困率は、1980年代から上昇しており、2004年時点で14%に達している。OECD 25ヶ国の統計では、日本全体の14.3%が貧困となっている。(平均は12.1%)

 この数値は2008年秋からの経済環境の変化の中で悪化していることは間違いない。

 経済大国となった現代日本において、貧困に育つということはどういうことになるのであろうか。ここでいう「貧困」とは、「相対的貧困」という概念である。

 この概念は食べ物にも事欠いているとか、衣服もボロボロである、といった「目に見える貧困」だけではなく、その社会における一般的な習慣や行動を行うことができるかを貧困の判断基準とする。

 子どもの生活においては、高等教育への進学といった、教育の機会の損失だけではなく、修学旅行に行けないとか、クラブ活動ができないなど、ほとんどの子どもが享受している生活ができない状況である。

 このような相対的貧困の状況にある子どもと、そうでない子どもを比べると、学力テストの点数や進学率をはじめ、健康状態、児童虐待、非行などのさまざまな指標において、貧困の子どもは不利である。

 学校の現場からは、3割の自己負担が払えなくて、通常であれば医療機関に行くような病気や怪我でも、学校の医務室通いで対処しようとする子、夏休み中は給食がないので新学期に以前より痩せてくる子、高校の学費が払えなくて退学する子など、現代日本とは思えない事例が次々と報告されている。

 日本は先進諸国で唯一、社会保障や税による「所得再分配」が行われた後で、子どもの貧困率が悪化している。これは子どもの貧困解消に公的支援が届いていないからである。

 政府をはじめとする公的資金の投入が求められている。学費の低減や失業者の救済、安価な住宅の供給、貧しいケースの多いひとり親家庭へのサポートなど多彩なメニューが考えられなければならない。社会保障と税が機能していないからである。これが現代日本か!

 日本の子どもの7人に1人が貧困に苦しみ「将来への可能性」が摘み取られつつあるという。いじめや不登校、親の解雇、家庭の不和などが原因で「社会のメーンストリーム」からはじき出された人が増えているからである。

 現在は雇用保険や生活保護などのセーフティーネットに大きな穴が開いているので、いったん「貧困のサイクル」に転落すると、そこから抜け出すことが非常に困難になっている。このサイクルの中で成長した大人が子どもを持つと、その子どもも同じ道をたどる可能性がきわめて高くなる。(貧困の連鎖)

 十分な教育機会の得られなかった層の正社員比率は低く、拡大している。日本には公的な貧困基準が存在していない。OECDでは、標準的な「手取り世帯所得」の50%未満で生活している18歳未満の子どもを「貧困」と定義するべきであるとしている。

 子どもの貧困は、すべての福祉国家の最大の政策課題である。しかしながら、長い間、日本の社会は子どもの貧困を自らの問題として考えてこなかった。

今こそ、これに気付くべき時である。


― posted by 大岩稔幸 at 12:09 am

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