古代、夜光杯は白玉を研磨してつくられていた美しい酒杯である。夜光杯の名が書物に登場するのは漢代に遡るといわれている。漢代の東方朔の記した『海内十州記』によれば、「周代に西域の者が玉でつくられた刀と夜光にきらめく杯を王に献上した。杯は白玉の極めて上質なもので、夜間も光り輝く」とある。
一方、涼州では祁連山脈から採れる「祁連玉」を使って夜光杯がつくられた。夜光石ともよばれる祁連玉は、墨色の模様の入った緑色をしていて、きめが細かくなめらかな質感を持っている。玉を薄く削って酒杯にすると、夜の光を通して緑色に輝くことから宝物として珍重された。
シルクロードによって繁栄を極めた唐代の長安では、夜光杯に西域から伝わった高級な葡萄酒を入れて飲むことも上流階級にあったと言われている。しかし、後世まで夜光杯を有名にしたのは唐代の詩人、王翰の『涼州詞』の一首である。ただし、その夜光杯が祁連玉だったかどうかは定かではない。
葡萄の美酒に夜光杯
飲まんと欲すれば 琵琶馬上に催す
酔うて沙上に臥す 君笑うこと莫かれ
古来征戦 幾人か回(かえ)る
王翰 『涼州詞』 唐詩選より
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