「権利ばっかり主張しないで、義務を果たせ」そんなフレーズをしばしば耳にする。思わずうなずきそうになるが、「まことの憲法講座」を連載した法律家の伊藤真さんは、ちょっと待て、と警告する。
「だって権利に義務なんか伴わない。権利は権利。義務は義務。それぞれ別物です」
伊藤さんは中でも自民党の新憲法草案について「『人権ばっかり主張しないで、国防や愛国の義務を果たせ』という考えが満ちている。これは国民を誤解させるフレーズだ」と言う。先日、こんな例え話で説明した。
「わたしが友達に一万円を貸したとする。わたしには『返せ』という権利がある。相手は返す義務がある。だけど、わたしに義務はこれっぼっちもない。国民に人権という権利があるとき、国の方にこそ『人権を守る』義務がある。国民に義務が伴う、というのはうそです」
伊藤さんが言うように政治の世界で言葉はねじ曲げられ、レトリックが横行するばかりだ。
伊藤さんは国民投票法案について「憲法改正派、反対派の両方にフェアでなければならないのに、圧倒的に改憲派有利。不公正だ」と指摘し続けている。ところが法案はあっという間に衆院通過した。反対や慎重審議を求める声が相次いだ中央公聴会からわずか一週間後のことだ。
公聴会では反対意見を述べる女性に対し、与党議員が「あんまり聞いても無駄かもしれませんけど」などと放言までしている。
耳を傾ける気がないのに「公聴会」。言葉はここでもないがしろにされ、同法案は中身も審議も伴わないまま今週、参院でヤマ場を迎える。
2007年5月8日
高知新聞夕刊
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天野弘幹
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