フランス革命時に活躍した政治家にコンドルセ侯爵がいる。数学者としても知られ、多数決を説明する「コンドルセの定理(陪審定理)」を発見した。
定理といっても難しくはない。ある問題について、答えの選択肢が二つしかなく、参加者が正しい答えを選ぶ確率が50%を超えている場合、参加者の数が多いほど正しい答えが導き出される確率が高くなる、というものだ。意識していなくても、多数決で物事を決める際の暗黙の了解事項だろう。
憲法改正手続きを定める国民投票法がきのう成立した。コンドルセの定理で考えてみると、投票は「賛成」「反対」の二者択一だから当てはまる。投票する人が正しい答えを選ぶ確率が半分以上という、もう一つの前提条件はどうか。
賛否どちらが正しい答えかは別にして、判断するためにはさまざまな情報が欠かせない。マスコミによる情報提供や自由で活発な議論、国会の改正発議から投票までの十分な時間などが必要だ。投票法はその辺りにあいまいさが漂い、いささか心もとない。
定理を逆からみると、投票参加者が少なければ、正しい答えが生まれる確率は低くなってしまう。投票率がどの程度なら問題ないのかは分からないが、下限を設ける必要はないのだろうか。発議の厳しい条件も、自民党の新憲法草案はハードルをぐんと下げているから、歯止めとして十分とはいえまい。
多数決のルールは民主社会に欠かせないが、使い方を誤ると思わぬ結果を招くのは歴史の教えるところだ。
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