福島第一原発について

原子力の導入
ケリー氏は、早速この問題に取り組むことにして、堀内教授の助言により東大植物学科の田宮博教授に学術体制の刷新策を建てるように求めた。田宮教授は、その頃北大から東大に移られた物理学科の茅誠司教授に協力を求め、また 英語に強い人にいて欲しいというので同じ物理学科の嵯峨根遼吉教授にも協力を求め、田宮・茅・嵯峨根の「3人組」を作ってケリー氏との交渉を重ねられた。 研究者は寝耳に水という感じであったという。

この予算は参議院審議途中に自然成立した。この原子力予算配分こそ「原子力平和利用」に関する最初の報道の争点であった。だが、予算が計上されたのは、通産省工業技術院であった。

ウラン資源の調査をすることになった工業技術院地質研究所は動揺し、日本地 質学会に問題を提起したが、原子力平和利用が確定的でない以上関与せずの方針を打ち出した。結局人形峠に7000t のウラン(U3O8)を発見した。

その後、 五ヵ年の間に3 億円が投入された。日本の原子力発電の背景について、確認しておくべきことは、「原子力」の平和利用の導入が、技術者、科学者主導では なく政府主導で行われたということである。

原子物理学者が、同時期に第五福竜丸が被爆したビキニ諸島での水爆実験の影響による放射能汚染の分析に気に奔走しているときに、物理学者の意向ではなく、政治の力で導入されたのである。 この「予算」の意義として重要な点は、科学者側の意向を無視し、政府主導で まず予算がつけられ、その後の使われ方が決まっていったということである。

実際、日本学術会議の勧告で「平和利用三原則」が法案に入ることは先に記した通りである。だが、これはむしろ、このような政治主導の動きに対する科学者の対抗措置というべきものであった。原子力技術は高速増殖炉などの核燃料 サイクルを除けば、自主開発ではなく「外国製」の導入である。

日本学術会議の誕生 ー 研究者の意思決定機関  
第1、第2章で述べたように、原子核科学の分野では研究体制の整備と大型 研究計画の推進に学術会議が果たした役割は極めて大きかった。茅、朝永、伏 見、坂田先生らの強いリーダーシップと研究者集団の強い団結によって、物理学の分野が突出した感じが強い。桑原武夫先生に「物理帝国主義」だと批判さ れても、なお、原子核分野の研究者は学術会議を研究者の意思を集約する場として重視し、研究者の意思に基づく研究計画の審議と推進に利用した。
学術会議の総会や部会ではなく、研究連絡委員会あるいはその下部組織である研究者 集団の段階で厳しい検討を進めてきた。

研究者側にとっての「原子力」
原子力基本法第二条第三項「関係行政機関の原子力利用に関する経費の見積もりおよび配分計画に関すること」について国立大学協会の申し入れにより「原 子力委員会設置法第二条第三項」の関係行政機関の原子力利用に関する経費に は、大学における研究経費を含まないものとする。」という付帯決議がつけら れた。

その後、文部省予算での研究を強いられた。これは、平和利用/軍事利 用という利用用途に限らず核エネルギーであるという宿命をもつ原子力研究に 関して、学問的に政治力の影響を排除しようという科学者の良心的意図であろうと考えられる。しかし、これは、大学関係者の委託研究、共同研究という形 までは禁じていなかった。

ここにある意味での「ねじれ」が生じてしまった。 すなわち、第一に、原子力の関連研究の研究費を産業界に依存せざるを得ない 状況が生まれた。第二に、その後大学がその社会的要請に答えて原子力関連講 座、原子力関連学科を充実させていき原子力関連従事者、研究者の人材養成を 図るにつれ原子力関連企業との結びつきが強くなっていった。

大学よりも、より潤沢な資金を持って研究環境の充実が図られる民間へ、優秀な人材の流出が 促されていった。当初は、日本原子力研究所には、潤沢な資金を使って研究が できるとされ、大学教授は学生に薦めたという(茨城新聞,2000.2.17)。

第 三に、学生の就職先としての関連企業、関連団体との連携が密になっていく。
これは、理系で現在でも共通した傾向であり、技術者、研究者の就職が企業側 の要請によって大学側で就職の斡旋が行われている。
だが、特に原子力はその 利用意図が限られているがゆえに、就職先も限定される。ゆえに、人材的にも、 金銭的にも電力界と研究者の関係は密になっていった。
また原子力発電が基礎 研究から実施段階になり、技術として浸透していくに従って、「原子力」が理 学(物理学)から「工学」の研究分野に、中心が移っていく。実用技術としてより産業界とのの結びつきが強まり、上記のような傾向を促していくことになるのである。

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― posted by 大岩稔幸 at 09:52 pm

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