月島はその地名が示すように「島」である。明治時代、埋立てによってつくられた島。隅田川と朝潮運河に挟まれ、月島川と新月島川とで分割された、水の気配、海の風情を感じられる場所でもある。古くは漁業、現在は築地の市場で働く人が多い土地柄で、いきおい朝が早く、夜も早くに静かになる。
この地を全国区にしているのは、もんじゃ焼き。お目当てはひとえにそれあ
るのみ。月島3丁目を貴く月島西仲通り(通称もんじゃストリート)界隈には70〜80軒のもんじゃ焼き店があるという。
もともとは駄菓子店の片隅で、店主が、水で薄く溶いたメリケン粉でもって文字を描くように焼いたことがもんじゃ焼き命名の始まりとか。その小腹の養いから始まったものが大人の昼食として成り立つのかとハナハダ疑問ではある。
もんじゃ焼きは、キャベツ・桜海老・切りイカ・天カスが基本の具材。キャベツが食感の中心線となり、桜海老が風味をもたらし、切りイカと天カスがタネ(生地を溶いたお汁のこと)にコクと旨みを加える。ここに魚介類をはじめとしたさまざまなトッピングを足し、味わいの幅を広げていく。
銀色のボウルに盛られた「明太子・もち・チーズ入り」が登場。
この段階では満艦飾のフラッペのように美しい。焼くにあたってこちらはほぼ初心者であるから、店の人に全権を委ねる。抽をたらし、大きなコテで鉄板全面に伸ばした後、チーズ以外の具材を落として、よく混ぜる。具材を取りまとめたら、円く、土手をつくり、そこにタネを流し込む。そこにチーズをプラスして、また混ぜる混ぜる。鉄板上は文字というよりも点描画風になり、印象派の絵画になり、終いには抽象画となってクックツと泡立ち始める。もう食べ頃らしい。眼前のそれは混沌の小宇宙。ハガシ(小さなコテ)で鉄板から剥がし取るようにして口に運ぶ。あ−、もう我慢できない。「すいませ−ん。生ビールください」。
それは鉄板上の絵画。点描画、印象派、抽象画。そして混沌の小宇宙。
2008年SKYWARD 10月号
JAL機内誌
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